動機づけ面接(MI)とは?

動機づけ面接(MI)とは?

動機づけ面接(Motivational Interviewing/MI)は、簡単にいうと「傾聴しながら、ガイドする」コミュニケーションスタイルです。

テキストには、次のような定義が載っています。

一般人向けの定義:動機づけ面接は協働的なスタイルの会話によって、本人自身の動機づけと変化へのコミットメントを強める方法

臨床家向けの定義:動機づけ面接はパーソンセンタード・カウンセリングのスタイルのひとつであり、変化に対する両価性に関わる一般的な問題を扱う。

『動機づけ面接 第3版』(ミラー&ロルニック著, 原井宏明監訳/星和書店)

この記事では、対人援助職・支援者の方が、動機づけ面接の特徴を掴みやすいように、概要を紹介します。

たとえばどういうこと?〜両価性について

まずはざっくりと、動機づけ面接のイメージを掴んでみましょう。

たとえば、子供が宿題をするかどうかで迷っているとき。その子供は「宿題をする」「宿題はしない」とはっきり決めているわけではありません。「宿題をしなきゃ」と思う一方で、「めんどくさい、むずかしい、やりたくない」という気持ちもある。このような「やりたい、でもやりたくない」「変化したい、一方で、変化したくない」という心の状態を「両価性」Ambivalenceといいます。

このときに、親が「とにかく宿題やりなさい」と一方的に指導しても、うまくいくとはかぎりません。逆に、やりたい気持ちが失せてしまったり、反発したくなったりすることもよくあります。

これは、「禁煙」「断酒」「ダイエット」「エクササイズ」「資格の勉強」などでも同じです。十分な信頼関係ができていないのに、一方的に指導やアドバイスを与えても、行動には結びつきません。

こんなときに、相手の気持ちや考えを誠実に理解する傾聴的な関わり方をベースに、変化の方向へとガイドするコミュニケーションスタイルが動機づけ面接です。

まずは「傾聴しながら、ガイドする」というイメージで捉えてみてください。

動機づけ面接の適用範囲〜医療から家庭まで

動機づけ面接はもともと、1970年代後半から1980年代にかけて、アルコール依存の問題の研究から始まりました。

いまでは、禁煙や薬物依存、ギャンブル依存、摂食障害、HIV感染予防、適切な服薬遵守などの医療分野はもちろん、司法・矯正領域、教育分野、産業・キャリア分野、家庭での子育てなど、多くの分野で世界的に普及し、また適用範囲が広がっています。

また、日本では公認心理師の学習範囲にも取り入れられています。

動機づけ面接でないもの

一方的な説得やアドバイスではない

前述したように、「やりたい、でもやりたくない」の両価性の状態のときに、一方的な説得やアドバイスをしてもうまくいきません。

私たちはついつい相手のためと思って、間違いを指摘したり、一方的に説得したりアドバイスをしたりしがちです。これは動機づけ面接ではありません。

むしろ、この従来のやり方に変わる方法として世界的に普及してきているコミュニケーションスタイルが動機づけ面接です。

※動機づけ面接では「物事を正し、害を予防し、クライエントの福利を促進したいという援助者の自然な願望」を「間違い指摘反射」(Righting Riflex)と呼びます。この間違い指摘反射のままに指示や説得を行うのではなく、傾聴的に関わりながらガイドする方法が動機づけ面接です。

来談者中心療法そのものではない

動機づけ面接では、相手を温かく受け入れ誠実に理解する傾聴的な関わり方をします、これは米国の心理学者カール・ロジャーズ(1902〜1987)の来談者中心療法の影響も受けていますが、来談者中心療法そのものではありません。

動機づけ面接のもう1つの側面は、特定の方向性を持つことです。今回の面談では何がゴールであり変化する方向なのか、逆に何が現状維持側なのかを意識しながら、特定の変化の方向を目指して面談を進めます。

とはいえ、ロジャーズの来談者中心療法/傾聴と動機づけ面接は本質的に重なる部分が多いので、対人援助職・支援者の皆さんはぜひそこにも興味を持っていただければ幸いです。

特定の心理療法ではない

動機づけ面接は特定の心理療法ではありません。

逆にいえば、クライエントと協働し面談を円滑に進めるためのコミュニケーションスタイルとして、認知行動療法などの様々な心理療法と組み合わせることが可能です。

動機づけ面接のスピリット:PACE

動機づけ面接を行う上で大切にしたいスピリットは「PACE(ペース)」という言葉で表されます。

PACEは「パートナーシップ(Partnership, 協働)」「受容(Acceptance)」「思いやり(Compassion)」「引き出す(Evocation)」の頭文字を組み合わせたものです。

順番に見てみましょう。

P:パートナーシップ(協働)Partnership

「欠陥のある患者を専門家が治療する」のではなく、支援者とクライエントという「2人の専門家」が協働してクライエントの行動変容に取り組みます。クライエントは「その人自身の専門家」として、気持ちや考えや意思決定を常に尊重されます。

※この記事は、対人援助職・支援者の方を主な対象として執筆しているため、クライエントに対して動機づけ面接を行う人を「支援者」と表記しています。「セラピスト」「カウンセラー」「臨床家」「聞き手」等と言い換えてもかまいません。

A:受容 Acceptance

いいところも悪いところもあるクライエントを1人の人間として心から受容する態度のことです。

これは、クライエントの意見に何でも賛同することではありません。支援者がクライエントを評価・ジャッジするのではなく、面談中はいつも温かく受け入れ、クライエントの感情や考えを正確に理解しようと試み、クライエント自身の決定を尊重する態度を指します。

動機づけ面接では、この「受容」の中に、次の4つの側面があるとされています。

  • 絶対的価値(Absolute Worth):クライエントの価値に条件をつけるのではなく、無条件の肯定的関心(unconditional positive regard)を示すこと。
  • 正確な共感(Accurate Empathy):相手の目を通して世界を見ようとする、相手の内的視点への積極的な関心と理解の努力。
  • 自律性のサポート(Autonomy Support):人には自身の方向を決める能力と権利がある。その自律性を尊重すること。
  • 是認(Affirmation):相手の強みと努力を探し出して承認すること。

以上、原著の英語ではAcceptance(受容)の中に、「Absolute Worth(絶対的価値)」「Accurate Empathy(正確な共感)」「Autonomy Support(自律性のサポート)」「Affirmation(是認)」の4つの「A」が入っている構成になっています。

この4つの条件を合わせれば、動機づけ面接における「受容」の意味が伝わります。

つまり、クライエントの人間としての絶対的価値を大切にし、その人が自分で選択するという自律性をサポートする。そして正確な共感を通じてクライエントの視点を理解しようとし、その人の強みと努力を是認すること。それが動機づけ面接における「受容」になります。

C:思いやり Compassion

相手の福祉を積極的に増進しようとすることであり、相手のニーズを満たすことを優先すること。

これは要するに、動機づけ面接を商品の販売など自分の利益への誘導に使ってはならないということ、クライエントのために使ってくださいということです。

E:引き出す Evocation

クライエントの中にある強みに焦点を当て、引き出すこと。

つまり、クライエントが変化するための答えは、クライエント自身の中にあるということ。「必要なものはあなたが持っています。一緒にそれを発見しましょう」という態度です。

ちなみに、このスピリットとしての「引き出す」(Evocation)は、2023年秋出版予定の新しいテキスト(MI-4)では「エンパワーメント(Empowerment)」になる予定です。

4つのプロセス

動機づけ面接には「4つのプロセス」があります。

通常、支援者はややもすると早急に計画を提案してしまうことがありますが、動機づけ面接では「計画」は4段階のプロセスの最後になります。

つまり、「クライエントの準備ができていないのにもかかわらず、計画に進んでも上手くいかない。十分な準備ができてから初めて計画に進む」という考え方です。

この4つのプロセスは「関わる」「フォーカスする」「引き出す」「計画する」です。

順番に見ていきましょう。

関わる Engaging

4つのプロセスの1番目は「関わる(Engaging)」。まずは、お互いが信頼し合い尊重し合える「援助関係を確立するプロセス」が必要ということです。

「この支援者は、私の話をよく聞き、理解しようとしてくれる」「決まったやり方を押し付けるのではなく、私に選ばせてくれる」「この人なら信頼できる」という関係づくりの段階です。

フォーカスする Focusing

つぎに、「フォカースする(Focusing)」プロセスがあります。これは、変化の方向とゴールを確認する段階です。

クライエントは同時にさまざまな問題を抱えている場合があります。それらについて、漠然とあれもこれも話すのではなく、今回は何について話して、どのゴールを目指すのかを定めます。

たとえば、クライエントが「アルコール問題」「健康問題」「家族関係の問題」「仕事上の問題」を抱えているときに、たとえば「今回は断酒について話しましょう」とゴールを定めます。

このゴールへと向かう発言を「チェンジトーク(Cange Talk)」と呼びます。(例:「断酒したい」「健康のためには断酒が必要」「私は断酒できる」)

逆に、ゴールに向かわず、現状維持でよしとする発言を「維持トーク(Sustain Talk)」と呼びます。(例:「断酒は難しい」「断酒する必要を感じない」「いままで何度も失敗したから自信がない」)

「フォーカスする」ことで、何が変化側で何が維持側かが定まります。

※ちなみに、ここでいう「フォーカスする」(Focusing)とは、カール・ロジャーズの共同研究者でもあったユージン・ジェンドリンが考案した「フォーカシング」の技法とはまったく別の概念です。

引き出す Evoking

変化の方向が決まって、フォーカスがそこに当たれば、次は「引き出す」(Evoking)プロセスになります。

動機づけ面接では「患者に欠陥があるからそれを治す」という立場は取りません。「クライエント自身の中に変化へと向かう力が備わっている」と考えます。その、まだ表に現れていないものをクライエントの中から発見するための共同作業を行います。

具体的には、変化へと向かう言葉(チェンジトーク)を、クライアント自身に言ってもらうことを目指します。「なぜ変わりたいのか」「変わるとどんないいことがあるのか」「変わりたい気持ちの根底にはどんな価値観があるのか」などについて、対話を深めます。

たとえば、「禁煙すること」がゴールだとすると、「健康を大切にすること」「家族を大切にすること」「貯金すること」「仕事でいいパフォーマンスを発揮すること」など、いろんな理由が考えられます。

そして、維持トークとチェンジトークのバランスが変わり、十分にチェンジトークが増えてきたら、初めて次の計画段階に移ります。

計画する Planning

「引き出す」段階が終わり、動機づけが十分に高まったら、計画段階に移ります。つまり、「変化するのかどうか」「なぜ変化したいのか」を話す段階から、「いつ、どのように変化するのか」について考える段階に移り、具体的な計画を立てます。

このように、動機づけ面接では、最初から計画に入るのではなく、「変わりたい、変わりたくない」という両価性のあるクライエントに対して、「関わる」「フォーカスする」「引き出す」というプロセスを経てから、最後に計画に移ります。

ただし、この4つのプロセスは、必ずしも一直線に進むとは限りません。クライエントとともに歩む中で、進んだり戻ったりを繰り返すこともよくあります。支援者が先を急ぐのではなく、クライエントと共に歩むことが大切です。

基本スキル OARS(オールズ)

動機づけ面接ではOARS(オールズ)という基本技法を用います。

このOARSは「開かれた質問(Open Question)」「是認(Affirmation)」「聞き返し(Reflection)」「サマライズ(Summary)」の頭文字をとってまとめたものです。

ボートを漕ぐオール(oar)のように、OARSは舵取りやガイドするツールであり、前に進む動力源でもあります。

O:開かれた質問(Open Question)

「開かれた質問」は、クライエントに自由に話してもらうための質問です。(例:「今日はどんなことでいらっしゃいましたか?」「5年後にはご自身の人生がどんなふうに変わっていたらいいなと思いますか?」「私が何かのお役に立てるとしたら、どんな助けが欲しいですか?」)

開かれた質問は、たとえるなら「開かれた扉」のようなものです。クライエントがそこからどこに行くのかは、聞いてみないとわかりません。

A:是認(Affirmation/Affirming)

クライエントの発言のポジティブな部分を強調すること。クライエントが人として持っている固有の価値を見つけ、認めること。クライエントを支え、勇気づけることです。

これは支援者が上から目線で評価を与えることとは違います。クライエントの中に備わっている強みを発見する、またそこにスポットライトを当てる態度で行います。口先だけの言葉ではなく、心から率直に(genuine)行うことが大切です。

R:聞き返し(Reflection/ Reflective Listening)

聞き返しは、OARSの中でも最もよく使う基本スキルです。クライエントの気持ちや考えを、質問ではなく、通常の文のかたちで聞き返しながら、理解を確認します。

「聞き返し」には、クライエントの言葉をほとんど意味を変えずに返す「単純な聞き返し」と、さらに深く探索する「複雑な聞き返し」があります。

氷山に例えれば、すでにクライエントが話したこと(水面上の部分)が単純な聞き返し、まだ表に現れていない水面下の部分についての聞き返しが、複雑な聞き返しになります。

S:サマライズ/要約(Summarizing)

「サマライズ」は、まとまった聞き返しです。相手が話した言葉を集めてかごに入れて返すイメージで行います。

サマライズによってクライエントはいったん立ち止まり、それまでのさまざまな経験を振り返ることができます。

サマライズにはいくつかの役割がありますが、クライエントが話したチェンジトークを集めて花束のように渡すサマライズは、動機づけ面接の大きな特徴になります。

情報提供やアドバイス

以上のOARSに加えて、情報提供やアドバイスの方法も、動機づけ面接の基本スキルになります。

対人援助職・支援者にとっては、面談の場面で、「どう情報提供するか」「アドバイスを行うか」が必要な場面も多くあります。たとえば薬剤師なら、薬の成分や効能、飲み方についての正確な情報や注意点を伝える必要があります。

そんな場合に、「相手を温かく受容する」「相手の話をよく聞く」だけだと、心がけは良くても、具体的にどう対応すればいいか分かりません。その意味で、このような現場で使える具体的なスキルが必要となります。

動機づけ面接では、情報やアドバイスについて、それを一方的に与えるのではなく、クライエントの許可をとりながら提供したり、また提供後にもクライエント自身の考えを確かめたりすることを重視します。

対人援助職・支援者にとっての動機づけ面接

対人援助職・支援者にとってMIを用いるメリットとして、たとえば、以下のことが挙げられます。

  • 傾聴的に関わる:一方的に説得やアドバイスを行うのではなく、クライエントを尊重し、理解しながら、協働作業として面談を進めることができます。
  • 方向性をもった面談ができる:傾聴的に関わる一方で、行動変容のゴールを定め、クライエントのやる気や強みを引き出して、方向性のある面談ができます。
  • 現実の制約の中で活かせる:支援の現場では、「決められた時間のなかで情報提供しなければならない」「次の計画を決める必要がある」などさまざまな条件があります。そんな諸条件のなかで、傾聴的な関わり方を活かせるのが動機づけ面接の特徴になります。いわば、傾聴の実践的な拡張版として用いることができます。
  • さまざまな技法と組み合わせて用いることができる:動機づけ面接は「傾聴的・来談者中心的側面」と「方向性」をもったコミュニケーションのスタイルなので、クライエントと協働して面談を進める際に役立つ技法として、認知行動療法などの様々な心理療法と組み合わせることができます。

このように、動機づけ面接は対人援助・支援の現場で活用することができます。

この記事の執筆者について

この記事の執筆者である私、藤本は、2017年から動機づけ面接を学び始めました。

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以上、動機づけ面接の普及に少しでも貢献できれば幸いです。

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参考文献

  • MOTIVATIONAL INTERVIEWING Helping People Change Third Edition by Willian R. Miller and Stephan Rollnick
  • 『動機づけ面接 第3版』(ミラー&ロルニック著、原井宏明監訳/星和書店)
  • 『医療スタッフのための動機づけ面接法 逆引きMI学習帳』(北田雅子、磯村毅著/医歯薬出版株式会社)
  • 『公認心理師技法ガイド 臨床の場で役立つ実践のすべて』(編集主幹 下山晴彦/文光堂)